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産経特選京都
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京の山里を行く

産経特選京都サポートセンター

産経関西
三方を山に囲まれた京都には、その山ふところに包まれて多くの山里が点在している。
雅を誇った都の周辺にあって、時として貴人の幽閉の地となり、また政権を退いた為政者が都の喧騒を離れ暮らした地として、京都の歴史の輪郭を色濃く留めている。
「京の山里を行く」は、そんな歴史の原風景を訪ねると共に、里々に伝わる特産物をあわせて
紹介するシリーズである。


第5回 花脊の里」

京都府道38号線(鞍馬街道)を北に、鞍馬の集落を過ぎると道はうっそうとした杉木立の中を通る。やがて険しく蛇行した道は花脊峠にさしかかる。花脊峠(759m)、この地を冬に訪れるとそれまでの道の風景は一変する。道は両側に雪壁をつくり、まさに雪国の風景となる。ここに降った雪は春の訪れとともに峠よりさらに北の佐々里峠を源流とする大堰川と合流して桂川に注ぐ。そして流れは京の都を迂回して北行きから西行きに向きを変え、亀岡を経て嵐山を通過してやがて桂川となる。

険峻な花脊峠を一気に駆け下りると、最初の里である別所に出る。花脊は普通花「背」を使うが、正しくは花「脊」である。地名については諸説あるが、都を背にして行くからとか、或いは南に広がる都の背骨の山、また北山の懐に抱かれている等どれも定かではない。別所は古くは天台宗の念仏別所があつた。道端の福田寺〔曹洞宗〕は、かつて叡山三千坊のひとつといわれ、平安時代には北方弥勒浄土の地にある寺として信仰を集め、花脊経塚が営まれたという歴史を伝える。70年代まではかやぶき屋根の民家が大半であったが、今は数えるほどになり、代わりに若手芸術家の工房やレストラン等が点在するようになった。民家の表札は「藤井」「物部」が圧倒的に多く、土地の人は互いを名前で呼び交わしている。土地の人の伝承によると、藤原氏系列の物部氏が住み着いたと言い伝えられている。

別所を北に川の流れに沿って行くと、やがて大布施に出る。京都の中心部から約1時間、京都市の出長所や消防署等の官庁があるのを見て、ここが京都市左京区の一画である事を確認する。ここ大布施は細長い花脊集落の中間点に位置し、花脊峠開通以前の水運合流点であるが、ここから筏を組み木炭や木材を運んでいた。ここを出た川は嵐山まで約140Kに達するが、下流の京北町の流域にかけては上桂川、南丹市園部町に入ると桂川、南丹市八木町から亀岡市にかけては大堰川、保津峡から嵐山までは保津川と名を変え、嵐山から再び桂川となり、やがて木津川や加茂川と合流して淀川となり大阪湾で長い水の旅は完結する。

大布施付近には、清流にしか住まないという天然記念物のオオサンショウウオが生息している。オオサンショウウオは稚魚を餌にしているため、一方では川魚漁を営む漁業者にはやつかいな存在である。ひところ人々の口端にのぼったツチノコと名の付いた蛇のような幻の生物かいるが、どうもその形状からオオサンショウウオと見間違ったのではとの説がある。確かに形や習性から、陸に上がったオオサンショウウオをツチノコと思い違いをしたことは大いに考えられる。今もってチツノコは確認されず、一度は見てみたいものだと思うが、一方で深山に棲む、幻の生物のままでいてほしてと思うのは凡人の勝手であろうか。

桂川の支流である寺谷川を上ると、大非山峰定寺(ぶじょうじ)に達する。藤原道憲〔信西〕が記した「大非山峰定寺縁起」によれば、この寺は平安時代の末の久寿元年(1154)、鳥羽上皇の勅願により観空西念〔三滝上人〕が創建したもので、十一面千手観音像を本尊として安置している。観空西念は大峰山、熊野で修行を積んだ修験者であった。そのため「鐘掛岩」「蟻の戸渡り」などと称する行場が点在し、古くから修験者の修行の場であった。修験の行場として著名な大和の大峯山(奈良県吉野郡天川村)に対し、大悲山は「北大峯」とも呼ばれた。今も余人を寄せ付けない、修行の場としての凛とした空気を漂わせている。

寺の門前には知る人ぞ知る隠れ里の料亭「美山荘」が、ひっそりと雅に暖簾を垂れている。当初は宿坊であったのを料亭にしたという。今でも著名作家等らが好んで訪れる名所になっている。京都市の最北の里、広河原能見口まではここから約4`、1時間の道のりである。細長く点在する花脊の里々は、今ものどかな山里の原風景と素朴な人情を留め、訪れる人に失われて行く日本の原風景を見せてくれる。


「松上げ」

花脊の最北の里である広河原では、毎年8月24日に洛北の奇祭「松上げ」が行われる。河原や畦道に差し込んだ約1000本の松明に点火し、高さ20メートルの大傘に松明を投げ入れる勇壮な祭りである。「松上げ」は、若狭街道に沿った山村の村々に伝承されてきた愛宕信仰による献火の行事であるが、精霊送りと火災予防、農作物の豊作を祈願して行われる。



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第1回  大原の里
第2回  水尾の里
第3回  八瀬の里
第4回  鞍馬と貴船の里
第5回  花脊の里
第6回  芹生の里up!
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